はじめに
この記事では、大規模な祭りや催し物が政府の規制によって、開催中止となる中、「いかにして北ドイツの小さな街の2020年収穫祭が開催に漕ぎ着けることができたか」について紹介します。
また、この記事では、「新型コロナ感染予防対策と会場の工夫」に焦点を絞って紹介します。
収穫祭のそれぞれの出店や催し物、会場の光景については、また別の記事で紹介します。
ご興味がある方は、こちらもあわせてお読みください。
ドイツの収穫祭に関する簡単な説明
2020年10月2日(金)から10月4日(日)にかけて、私が住む北ドイツのこの小さな街では、収穫祭が開催されました。
ちなみに、2020年10月2日(金)のこの街の新規感染者数は、0人でした。
この街の収穫祭の正式名称は、「農民と地域(特産物の)市(Bauern- und Regionalmarkt)」です。
この時期、ドイツでは、全国的に収穫祭が開催されます。
その収穫祭の名称は、開催される場所によって、本当に多種多様です。
例えば、世界的に有名なミュンヘンのオクトーバーフェストも、収穫祭の1つです。
2020年は、新型コロナ感染予防対策のドイツ政府の規制によって、大規模な祭りであるオクトーバーフェストは、中止を余儀なくされました。
ちなみに、私が一番好きな収穫祭は、ヴァイマールの玉ねぎ市(Zwiebelmarkt)です。
私は、この玉ねぎ市を少なくとも10回は、訪れています。私自身が住む街以外の収穫祭で最も訪れたことが多い収穫祭です。
玉ねぎ市は、2020年幸いにも、ドイツ政府の規制に従い、縮小および制限された形で開催できたとのことです。
私の住むこの街の収穫際も同様に、ドイツ政府の規制に従い、例年より縮小および制限された形で何とか開催されました。
新型コロナ感染予防対策と会場の工夫
2020年の収穫際では、新型コロナと共に生きる時代の催し物の開催のされ方というものを、会場のあちらこちらに見ることができました。
ドイツでは、日本の「3密」に当たるような表現は浸透していません。しかし、まさに、その「3密」を避ける工夫をして開催された収穫祭でした。
以下では、私が目にしたこれらの具体例を列挙し、お伝えしていきます。
入場者数の自動計算システム「ウィカウント(Wecount)」の導入
新市街から旧市街までの600から700mにわたる一本道の歩行者天国にある4つの広場で、テーマ別の催し物が開催されました。
今年は、新型コロナ予防対策のため、その中の2つの広場は、柵で囲われて、入場者数が制限されました。
ウィカウント(Wecount)というシステムによって、入退場門に設置されたセンサーで入場者と退場者が検知されます。そして、現在の入場者数が自動的に計算されます。
入場者数が会場の面積当たりに規制されている人数を超えると、再び入場者数が許容人数内に収まるまで、警備員が入場を拒否します。
各会場の入場者数の状況については、この祭りのホームページを閲覧すると、確認することができます。
次の画像は、実際に当日、この祭りに出かける前に、ホームページで込み具合を確認したときの画像です。
上の画像は、当日13時13分から約4分間の入場者数の推移を示しています。
- 緑色は、まだ十分に新たな入場者を迎えることができることを示します。
- 黄色は、入場者数が規制されている人数に近づいていることを示します。
- 赤色は、入場者数が規制されている人数に達し、現時点では入場できないことを示します。
この4分間のホルステン広場の込み具合(画像左側)は、規制されている最大入場者数の約3分の2に収まっています。
しかし、アスムス・ブレーマー広場の込み具合(画像右側)は、4分間以内に許容される最大入場者数の4分の3から100%に上昇し、上の3枚目の画像では、円が赤色でマークされ、現時点で入場できないことを示しています。
催し物の開催は屋外のみ
例年は、訪問者が中に入ることができる大小のテントが設置されます。
大きなテント内には、数店の出店が設置され、そのテント内で試食したり、購入したり、その場で飲食することができます。また、小さなテント内では、催し物や展示が開催されたりします。
あるいは、ショッピングセンターなども会場の一部になったりしていました。
しかし、2020年の収穫祭では、密閉空間を一切なくし、屋外のみが会場になりました。
出店と催し物の数の大幅な縮小(出店同士の間隔を広げる)
例年は、野菜や果物を扱う店にしても、お肉屋にしても、あるいはパン屋にしても、もっと多くの店舗が収穫祭に店を出します。
飲食できる店も、申し訳程度の数しか出ていませんでした。本当に寂しささえ感じるくらいでした。
本来、収穫際といったら付き物でもあるアルコール飲料を提供する店は、皆無でした。
2020年の収穫祭は、訪問者の密集を避けるために、出店数と催し物も大幅に縮小されるとともに、出店同士の間隔が広げられました。
飲食するためのベンチ付きテーブル数の大幅削減
例年は、飲食類を提供する店の付近やその広場に、十分な数のベンチ付きテーブルが設置されます。
2020年の収穫祭では、ベンチ付きテーブルの数量が必要最小限(厳密にはテーブル3つのみ)に縮小されていました。
主にお店ごとにビストロテーブル(立ち食い用の高くて丸いラウンドテーブル)が1台設置されているか否かという状況でした。
ビストロテーブルが設置されていたとしても、1人からせいぜい2~3人までの連れ添いでしか、テーブルを囲むことができません。
これは、他人との密接場面を避けるための手段です。
簡易トイレの設置は一切なし
収穫祭に限らず、お祭りが開催される際は、通常、簡易トイレが設置されるものです。
しかし、2020年の収穫祭では、一切簡易トイレが設置されていませんでした。
そういえば、2020年3月後半から4月後半のハードなロックダウン時には、街の屋外公衆トイレも閉じられており、使用不可でした。
簡易トイレは、密閉空間になり、感染の温床にもなりかねないので、設置されないということです。
入場者数制限が行われる会場の柵の工夫
入場者数制限が行われる2つの広場の会場では、柵が設けられました。
柵といっても、鉄製の柵が用いられているのは、一部の入退場門付近やその他の特定の箇所の最小限に抑えられています。また、入退場門付近の鉄製の柵は、幕で覆われていたりします。
それ以外の場所は、出店自体の裏側が柵を成していたり、干し草を束ねたブロックを1段ないし2段に重ねたりして、柵というよりも、むしろ枠を作っています。
まさに、「農民と地域(特産物の)市」にピッタリの雰囲気を醸し出しています。
このことによって、入場者は、柵で仕切られた会場に入場しているという感覚をあまり感じなくなります。
柵で仕切られていても、できるだけ「自然な空間」になるような演出がなされています。
粋な工夫です。
他者との一定の距離を保つよう指示する表示
柵が設けられ、入場者制限が行われた会場では、入退場門に「他者と少なくとも1.5mの距離を保つよう」指示する表示がありました(上の画像1枚目)。
「他者と2mの距離を保つよう」指示する独自の表示を行っている出店もありました(上の画像2枚目)。
農業用大型トラクターの展示会場となった広場では、いかにも「農民と地域(特産物の)市」らしく、「他人との距離を牛一頭分を保つように」支持する表示がありました(上の画像3枚目)。
マスク着用義務
入場者数制限が行われる会場では、マスク着用が義務化されました。
2020年収穫祭が開催された10月2日(金)は、この街での新型コロナ新規感染者数0人でした。
そのため、当時この街においては、特に屋外では、マスク着用の義務はありませんでした。
(アップデート:その後、年末から年明けの2021年1月現在に至るまで、北ドイツの私が住む街においても、屋外でのマスク着用が義務化されています。)
この事に関しては、入退場門の消毒スプレーが設置されている上部の表示にも記されています。
私、日本人としては、ここドイツ、西洋においても、ようやくマスク着用の利点と重要性が日増しに認識されてきたことに、大きな喜びを感じています。
もう随分前のこと、2016年1月に1度だけ、東京の実家の母から送ってもらったマスクを着用し、買い物に出たことがあります。
街では、絶えず人々の視線を感じました。そして、本当に怪訝な目で見られ、注目されました。
その日は、買い物が終わって、駐輪場へ戻ったら、私の自転車が盗まれており、本当に散々な目にあいました(ちなみに、この街で私は、2010年~2017年の7年間に、通算3台の自転車盗難被害にあいました。。。)。
そんな苦い思い出があるので、外出時にマスクを着用することは、それ以来2020年3月買い物時の店内でのマスク着用が義務化されるまで、一切やめていました。
入場者数制限が行われる会場の入退場門に消毒スプレー設置
入場者数制限が行われる会場の入退場門には、消毒スプレーが設置されました。
これは、2020年3月後半のドイツにおけるハードなロックダウン以来、習慣化されました。
ショッピングセンターなどでは、特にエスカレーターやエレベーター前に、あるいはその他の目立つ場所に、消毒スプレーが設置されています。
個々のお店の入退場口にも、消毒スプレーが設置されていたり、店員が個々の入場者の手に消毒スプレーを散布するのが2020年3月後半以来、日常的習慣になりました。
したがって、当然、収穫祭においても、入場者数制限が行われる会場の入退場門には、消毒スプレーが設置されていました。
入場者数制限が設けられた会場内では会場内で巡回方向が指定
混雑が予想されるため、柵を設置して入場者数制限が設けられた会場内では、入場者の巡回方向が指定されました。
会場内の地面には、巡回方向を示す矢印「→」がチョークで記されました。
ドイツでは右側走行であるため、基本的に歩行者も右側歩行となり、右回り(時計と反対回り)が適用されます。
2020年3月後半から始まったハードなロックダウン以来、ショッピングセンターでも駅の構内でも、右側歩行のマークがフロアや地面に記されています。
もっとも、これらの標示をそれ程厳密に守らなかったり、無視している人々も少なからずいます。
しかし、この収穫祭では、この右回り、右側歩行の巡回方向がしっかりと守られていた、という感がありました。
これは、入場者にとって感染予防となるのみならず、出店にとっても有益です。
例年では、明確な目的を持った訪問者は、特に興味を持つ出店へと直行します。そのため、その他の出店には、あまり目が向けられなかったりします。
しかし、入場者に一定の巡回方向を指定することによって、入場者はどの出店の製品や商品も、目にすることになります。
まさにIKEA方式と言えます。
IKEAでは、展示フロアや購買フロアに一定の巡回方向が設けられているため、時間があれば、多かれ少なかれ、どのコーナーの製品も目にします。
予定外の製品や商品まで購入してしまったという経験があるのは、私だけではないはずです。
巡回方向の指定には、収穫祭の出店にとって、このような収益効果があります。
おわりに
この記事では、大規模な祭りや催し物が政府の規制によって、開催中止を余儀なくされる中、開催することができた「北ドイツのとある小さな街の2020年収穫祭の新型コロナ感染予防対策と会場の工夫」について紹介しました。
いつ「収束」、はたまた「終息」するのか、全く分からないこの新型コロナです。
この記事は、2020年10月に書き始めたものの、「没」、「お蔵入り」としていた記事です。
「大きく縮小化され、制限され、申し訳程度に開催された北ドイツのこの小さな街の2020年収穫祭に興味を持つ読者が果たしているのか」、と疑問になったからです。
しかし、「新型コロナと共存せねばならぬご時世のイベント・催し物の開催の在り方の1つの記録」として、この記事を最後まで書き記し、公開することにしました。
この2020年収穫祭のそれぞれの出店や催し物の光景、製品や商品の紹介は、また別の記事に記します。
ご興味がある方は、こちらもあわせてお読みください。