消えゆく伝統?ドイツのクリスマスイブ料理「シレジアの白ソーセージ」

小麦粉をまぶせたシレジア風ソーセージを最弱火でじっくりと炒める 春夏秋冬
小麦粉をまぶせたシレジア風ソーセージを最弱火でじっくりと炒める

はじめに

ドイツ人の家庭では、クリスマスイブに腸詰ソーセージを頂くことを伝統的習慣とする家族が少なからずあります。

例えば、かつて私が数年間にわたってクリスマスに招待されていた友人の実家では、レンズ豆のスープに茹でたウィンナーソーセージを入れて頂くというのが、クリスマスイブの伝統的習慣でした。

そして、25日のクリスマスに「XXの丸焼き」みたいな料理をメインディッシュに頂きます。

クリスマスイブにソーセージを頂く習慣が特にない家族でも、「XXの丸焼き」のようなメインディッシュが提供されるのは、クリスマス当日の25日になります。

さて、この記事では、一定のドイツの家庭でクリスマスイブに頂くという習慣が未だに残っている「シレジアの白ソーセージ」とその調理方法について紹介します。

しかし、この習慣は、時代の流れとともに、消えゆく伝統ではないか、という感がします。

そのような事情から、この「シレジアの白ソーセージ」について、ここに書き記したいと思います。

生のシレジア風ソーセージ
生のシレジア風ソーセージ

シレジアの牛乳入り白ソーセージ

「シレジア地方」について

まず、シレジア地方について簡単に説明します。

日本では、英語名のSilesia(シリージアないしサイリージア)に由来するシレジアと呼ばれていますが、ドイツ語では、Schlesien(シュレージエン)と呼ばれる地方になります。

このシレジアもしくはシュレージエン地方は、旧ドイツ領、現ポーランド領であり、ポーランド西南部地方の名称になります。

しかし、ドイツ語でシュレージエンと呼ばれ、ポーランド語でシロンスクと呼ばれるこの地方は、極めて複雑な歴史がある地域の1つです。

数百年来、いや、中世以来、この地域の統治者、つまり、この地方が属する領主や王国、国は、戦争や領土の奪い合いによって、その都度変わってきた地域です。

この記事では、その詳細に関しては、割愛します。

今日でもドイツには、この記事で紹介する「白ソーセージ」以外にも、このシレジア地方の名が付く料理が残っています。

「シレジアの白ソーセージ」について

現在、私が住む北ドイツの一部のスーパーマーケットでは、クリスマス前になるとこの「シュレージエン地方名物の白ソーセージ」がお肉売り場に陳列されます。

ただし、厳密に言うと、今回、私がスーパーで購入したのは、「シレジア白ソーセージ(ドイツ語で、Weißwurst nach schlesischer Art)」になります。

「シレジア(nach schlesischer Art)」という表現からして、本来の「シレジア白ソーセージ(Schlesische Weißwurst)」のオリジナルレシピによるものでは、ありません。

まさに、「シレジア白ソーセージ」を模倣した「シレジア白ソーセージ」になります。

実際、私が購入した「シレジア風白ソーセージ」は、豚肉が材料でした。

しかし、本来の「シレジア白ソーセージ(Schlesische Weißwurst)」は、「子牛」の肉を使用したものとのことです。

今日、紹介されているこのソーセージのレシピを検索してみると、「子牛」の肉と脂身の少ない部位の「豚肉」と「脂身」をミンチして混ぜ合わせるのが通常です。

また、このソーセージの大きな特徴は、「牛乳」を混ぜて練ることにあります。

主に塩などの調味料で味付けをします。

その後、豚の腸に詰めます。

牛乳を加えるということによって、肉々しさが多かれ少なかれ抑えられるため、「マイルドでクリーミーなソーセージ」と言えます。

「シレジアの白ソーセージ」をクリスマスイブに頂くという習慣について

この「シレジアの白ソーセージ」ないし「シレジア風白ソーセージ」は、今でも特にクリスマスイブに頂くということを伝統的習慣とする家庭があるようです。

そのため、季節ものとして、この時期になると一部のスーパーのお肉売り場に陳列されます。

クリスマス以外にも、大晦日や復活祭、収穫祭などに頂く家庭もあるとのことです。

したがって、やはり家族の皆が集まる特別な行事の日に頂くソーセージと言えます。

そもそも戦前は、こうしたソーセージを一般的な家庭では、日常的に頂くことができなかったため、クリスマスイブとか大晦日という特別な日に頂く、という習慣があったとのことです。

また、かつてはお肉屋とかで「シレジアの白ソーセージ」が提供されたりしていたものの、時代の流れとともにそうした肉屋が次々と店を閉じてしまっていったとのこと。

今日では、このソーセージを提供する店を探すことが難しくなった、と言われています。

「シレジアの白ソーセージ」の調理方法について

このソーセージを初めて購入した際、店員に「この白ソーセージは、ミュンヘンの白ソーセージのように準備すればよいのか」と、聞いてみました。

その際、帰って来た回答は、「(軽く)炒める(anbraten)」のまさに一言、しかも一語のみでした。

そこで、フライパンに油を敷いて、最弱火でじっくりと炒めていきました。

しかし、このソーセージは、太めのソーセージであるので、最弱火で火をじっくりと入れていき、外側の皮(腸)に焼き色ないし焦げ色がついても、内側の方はピンク色であったりします。

そこで、インターネットで「シレジアの白ソーセージの調理方法」について調べてみました。

あるレシピのサイトのフォーラムでは、家族や家庭によって異なるさまざまな調理方法が投稿され、議論されていました。

いずれの腸詰ソーセージも、通常、そのソーセージに最も適した調理・準備方法があります。

しかし、この「シレジアの白ソーセージの調理方法」は、本当に人それぞれのようです。

例えば、

  • 油を使用し最弱火で炒める
    (オリーブ油でない方がよいとの意見があります。東欧のソーセージにイタリアの香りは合わないということかと思われます。)
  • シレジア風白ソーセージを油を使用して最弱火でじっくりと炒める
  • シレジア風ソーセージとザワークラウト
  • 多めのバターを使用し最弱火で炒める
    (シレジア地方の祖母を持つ方の投稿では、その祖母曰く「ソーセージの内部が少しピンク位がよい」とのこと。しかし、豚肉も使用されているので、これは、安全面からして、おすすめできません。)
  • シレジア風ソーセージを多めのバターで最弱火にてじっくりと炒める
  • シレジア風ソーセージを多めのバターで最弱火にてじっくりと炒める
  • マッシュルームと玉ねぎのクリーム煮
  • シレジア風ソーセージ、マッシュルームと玉ねぎのクリーム煮、赤キャベツのザワークラウト

  • 沸騰しないお湯の中で火を入れる(ウィンナーソーセージやミュンヘンの白ソーセージと同じ方法)
  • 沸騰しないお湯の中で火を入れた後、水分をしっかり拭き取り、小麦粉をソーセージにまぶせ、その後、フライパンで弱火にてじっくりと焼き色を付けてさらに火を入れていく(先にお湯で温めて予め火を通し、さらに小麦粉でコーティングすることによって、ソーセージが爆発することを防ぐ)
  • シレジア風ソーセージを沸騰しないお湯で温める
  • シレジア風ソーセージの水分をキッチンペーパーで拭き取る
  • シレジア風ソーセージに小麦粉を振りかける
  • 小麦粉を振りかけたシレジア風ソーセージを最弱火でじっくりと炒める
  • 小麦粉を振りかけたシレジア風ソーセージを最弱火でじっくりと炒める
  • シレジア風ソーセージ、玉ねぎとマッシュルーム炒め、ザワークラウト

私は、今回、すべての方法を試してみました。

この「シレジアの白ソーセージ」自体が一番おいしいと思ったとともに、説得力があったのは、この最後に挙げた調理方法でした。

おわりに

ドイツの家庭で、この「シレジアの白ソーセージ」をクリスマスイブに頂くという習慣は、時代の流れや世代交代とともに、薄れてきているという感があります。

そもそも、シレジア地方は、かつてのプロイセン王国の領土でもあったため、プロイセン王国の一部ではなかった今日の南部ないし西南部ドイツでは、このソーセージを頂く習慣はなかったかもしれません。

後日、この「シレジアの白ソーセージ」をインターネットで購入できるのか、調べてみたところ、ドイツないし欧州では、Amazonで入手可能とのこと。

この「シレジアの白ソーセージ」をインターネットでも製造販売しているのは、ドイツとポーランドの国境に位置する街、「ゲーリッツ(Görlitz)」の製造業者になります。

この街「ゲーリッツ」は、歴史上もシレジアの一部であった街になります。

Amazonで掲載されている画像を見ると、ソーセージに小麦粉を振りかけた上で、炒めているものと確認できます。

ちなみに、ドイツでの大学時代のテニス部でのヒッティングパートナーの一人は、この町、「ゲーリッツ」出身で、歴史学を学んでいました。

もう、長いこと連絡を取っていません。

久しぶりに、彼にメールでもしようかな、と思いました。

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